2023/3/1-31

セイロンティーがわからぬまま3月が終わった。
紅茶のことがよく分からないので、3月はいろんな産地やメーカーの紅茶を飲み比べて楽しんでいて、アールグレイとダージリンは好きということが分かったがセイロンはいくら飲んでもよく分からない。ビールで言うとアサヒのマルエフみたいな味で、マルエフは飲むと美味しいはずなのに飲み終わったあと一切記憶に残らない、しかしガブガブ飲んでしまう酒で、セイロンティーもそんな感じがした。

私は人相が良いのでよく人に道を訊かれるし、全身黒でも放火魔みたいにならない。

暇だと思うとき常に本を読んでいたい。しかし私の暇というのは信号待ちをしているときとか自転車に乗っているとき、階段を上がったりしているとき、散歩しているときなど、おそらく外界からなにかを受け取る力が弱いから暇だと思うのだった。だってカメラを持っているときに散歩していたら暇だとは思わない。風景をじろじろ見てシャッターチャンスを探しているのだから。だけどそうではないとき(シャッターボタンに指をかけていないとき)は意識がオフになり、風景を見なくなって脳が暇になる。そして本を読みたくなるのかもしれなかった。
こういうとき小説家の朝吹真理子さんのことを思い出す。朝吹さんは休暇のときいつも同じ京都の旅館に泊まるという。なぜなら道中でさまざまな情報を浴びるので、旅館に行くだけで疲れてしまうらしい。また、旅館も常に同じ状態ではない(季節や応対する人や食事も違う)ので、そこでも情報が過多になるから、場所だけでも同じにして情報量を抑えないと休めないらしい。私はそういう受け取る力が弱いのだと思う。
と、書きながら、疲れているときは音や光がいつもより鋭敏に感じられるというか、音や光そのものの情報よりも、それらの輪郭線が濃く立体的に形となって物質のように私を圧迫することがあるなと思った(ドラえもんのコエカタマリンのように)。風景は音や光などの独立した存在のように際立つことがなく、私にとってはただ川の流れのようにどこからかどこかへ流れて過ぎ去る何かという程度のものでしかないのかもしれないが、音や光が際立っているのは受信装置の違いというか、カメラで言えば撮像素子の違いでメーカーの個性が出るみたいなことなのかもしれない。

知り合いから超いらないものが大量に送られてきて、いらないものが家に大量にある状態が不愉快なのですぐに全て捨ててしまった。1秒でも私の家に留まっていてほしくなかった。家が狭いっていうのももちろんあるけど、私の好きじゃないものが私の所有物である状態から脱したかった。捨てながら、私はお金に対しても似たような姿勢をとっているなと思った。

< この期間に読んだ本 >
📕永井みみ「ミシンと金魚」
 現時点での今年ベスト。誰もが目を背けている認知症老人の主体から語られる人生。我々はあらゆる人間に人生があることを(考えるのが面倒だから)無視しているけど、ここに生きて暮らしている人がいるんですということを、そんなことを書かずとも感じさせてくれてぐいぐい引き込まれる。全員読んでください。
📕ジョン・ウィリアムズ「ストーナー」東江一紀訳
 「ミシンと金魚」を読んで、もっと人間の人生を感じたくて読んだ。もう誰からも忘れられてしまったような人にだってその人の一生分の人生がある。人間一人の人生の膨大さ。
📕ダニエル・L・エヴェレット「ピダハン」屋代通子訳
 ピダハンというアマゾンの奥地に暮らしている先住民族にキリスト教を伝えようという伝道師が書き手なんですが、まずこんな奥地に(家族ごと)引っ越してきてキリスト教を布教しようって思うところがもう私のような雑な信仰を持つもの(神は信じていないけれど日本の習慣という信仰がある)にとっては途方もなく、また、ピダハン語という極めて難解な言語を「聖書をピダハン語に翻訳する(そしてキリスト教を伝道する)」という使命を貫くために死にものぐるいで勉強していて、その姿勢はまるで理解できないけれどそのエネルギーにうたれた。ピダハンは目に見えるものしか信じないので、伝道師が「イエスはこのように言われた、○○と…」という話をしたときピダハンは「じゃあ伝道師はイエスがそう言っているのを直接聞いたのか?そうでなければイエスは嘘だ。ピダハンは信じない。」などというやり取りがあり、それもまた面白い。彼らがどうなるのかはぜひ本を読んでみてほしい。この本を読んだあと、後日談の後日談も面白いので調べてみてください。読んだあと調べてくださいね。
📕今村夏子「とんこつQ&A」
 フレドリック・ブラウンのショートショートを日本に置き換えてより湿度を高めたような、使ったことのない柔軟剤の香りが服からしてきて何回洗ってもそれが全然取れない、別に嫌じゃないけど気味が悪い…みたいな不気味さが夏子にはある(夏子と呼ぶタイプのファン)。小説にしかできないことを見せてくれる人はあまりいない。
📕リチャード.T.シェーファー「脱文明のユートピアを求めて」
 この本全然知らなかったのですが、アメリカの宗教について知るにはすごく良い本でした。恥ずかしながらシェーカー教徒とクエーカー教徒のことを同じだと思っていた(シェーカー教の教祖はもともとクエーカー教徒だったが)し、アーミッシュやジプシー、サイエントロジーまで幅広く取材してあって、前提知識として読んでおくとアメリカ映画や小説をもっと楽しめると思った。

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